― いぐさ機械と技術のバトン ―

【1】春は準備の季節

4月、新しい年度が始まり、世の中はどこかそわそわとしています。学校や職場では「スタート」の空気が流れていますが、私たちの現場でも同じように“準備”の季節がやってきます。いぐさ農家さんにとって、これから始まる育成や乾燥作業に向けて、今の時期に機械の調整をしておくことがとても重要なのです。

冬の間に使わなかった乾燥機や自動織機、切断装置などを一つひとつ確認し、部品の劣化や油切れを点検していきます。この「ちょっと早いメンテナンス」が、夏以降の稼働トラブルを未然に防ぎ、作業の効率と品質を大きく左右します。春の整備は、まさに“見えない仕事の始まり”です。

【2】機械の調子は、農家のリズムに合わせて

機械は「壊れる」だけでなく「調子が出なくなる」ことがあります。少しだけ音が変わった、切断の角度が微妙にズレている、電源が入りにくくなった——そんな小さな異変も、熟練の農家さんはすぐに気づきます。だから修理する私も、“目に見えない違和感”に耳と目を研ぎ澄ませなければなりません。

面白いことに、機械の癖は、持ち主の癖と似てくるのです。ある職人さんは力強い織りを好み、ある人は静かな回転を望む。だからこそ、私は現場で相手としっかり話すようにしています。その人の「畳の織り方」や「こだわり」を知ることで、機械の調整にも“その人らしさ”を反映させることができるのです。

【3】次の世代へ技術を渡すとき

最近、若い世代の方が機械の調整に立ち会う姿を見ることが増えました。ベテランの親から作業を受け継ぐため、現場でメモを取ったり、写真を撮ったりしている。こうした姿を見ると、私は胸が熱くなります。

いぐさという植物を扱う技術はもちろんですが、それを支える“機械の扱い方”もまた、立派な継承の対象です。私の仕事は、部品を変えることではありません。技術のバトンを滑らかに渡す“つなぎ役”であること。春はその第一歩として、とても意味のある季節なのです。

2025年4月1日

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