― 継がれるものと、失われるもの ―

9月、夏の暑さも少しずつ和らぎ、秋の気配が感じられるようになりましたが、先月8月11日、熊本・八代地方は記録的な大雨があり、多くの方が不安な時間を過ごされたことと思います。被害に遭われた皆様に謹んでお見舞い申し上げます。
幸い、私自身や家族は大きな被害なく無事でしたが、改めて自然と共にある地域で生きていることを実感しています。
八代平野地方のい草生産者はじめ各農産物生産者の方々も甚大な被害を受けました。
復興するには少し時間が必要な人達もおられると思いますが、上を向いて一緒に歩いて行きましょう!!
【1】八代の朝は、いぐさの匂いから始まる
町のあちこちには、いぐさを干す風景や、織機のリズムが響く作業場が残っており、「ああ、ここはいぐさの町なんだ」と実感させられます。八代はいぐさ生産量日本一を誇る地域であり、畳のふるさととも言える場所です。けれど、農家の数も機械の整備工も、年々少なくなっています。畳文化を支えてきたこの土地で、私は「次の一手」を常に考えながら仕事をしています。
【2】「受け継ぐ気はあるけれど…」という声

最近増えてきたのが、跡継ぎ世代からの相談です。「親の後を継ごうと思っているが、機械の扱いに自信がない」「誰に聞けばいいのかもわからない」——そんな不安を抱える若者たちが、私に連絡をくれるようになりました。
私は修理人ですが、彼らにとっては“畳の作業を知っている年長者”でもあるようです。話を聞きながら機械を見て、操作方法やクセを一つひとつ教えていきます。決して簡単なことではありませんが、「いぐさをやりたい」という気持ちがあるなら、その灯を絶やしてはいけない。そんな気持ちで向き合っています。
【3】いぐさ文化を、暮らしの中に戻したい
機械修理という裏方の仕事をしていると、文化というものは“人の手”でつながれているのだと強く感じます。便利なもの、新しいものに押されて畳が減っているのは確かですが、それでも「やっぱり畳が落ち着く」という声を聞くたびに、希望を感じるのです。
いぐさ文化は、博物館にしまわれるものではなく、暮らしの中にあるべきもの。私はその橋渡し役として、壊れた機械を直し、迷っている後継者に寄り添い、いぐさのまちで今日も工具を握っています。継がれるものと、失われるもの。その境界線に立ち続けるのが、今の私の仕事なのかもしれません。
(写真:お客さまの倉庫で乾燥したい草が入っている袋、2段目(約60センチほど)まで浸かり処分)

2025年9月1日
